小さなころはママの買ってくれるお洋服を着るしかなくて、でも、
あたしは内心それがいやだった。
他の女の子たちが着ているような、赤やピンクのかわいらしい
ブラウスやフリルのついたスカートがうらやましかった。
だけどママは笑って「男の子がそんな格好をしちゃおかしいわ」
としか言ってくれなかったの。
あたしは男の子の自分がどうしても受け入れられなくて、
いつか天使さまが「ごめんなさい、間違えちゃった」と
言いながらほんとうの女の子の体をもってきてくれると
ずっと信じてたわ。

ケンちゃんはずっとそんなあたしになにも言わずにきてくれた。
あたしがいじめられた時もたった一人でいじめっ子に
立ち向かってくれたの。

「男がぬいぐるみ持ってたって何もおかしくなんかないん
 だからな?堂々としてれば誰もいじめたりしないんだぞ」

ケンちゃんの言葉、もう十年以上経つけど一日だって
忘れたことはなかった。

ねえ、ケンちゃん。あたし、どうしたらいいの…?

その日、ケンちゃんは沙苗ちゃんと一緒に下校して…
ひとりぼっちで先に帰ったあたしは、さびしくて、
パパが送ってくれたチョコを勝手に開けて食べちゃった。
そしたら、あれれ?なんだか体があつくて、ぼんやりする…
かぜひいちゃったのかな?
目の前がぽやぽやして、とってもいい気分。
きれいな光がいっぱい見える。
もしかしたら、とうとう天使さまが来てくれたのかな。
ママの古い漫画に出て来たような、慌てん坊の小さな天使さま。

帰って来たケンちゃんはおこったように顔を赤くしていた。
(あたし、やっと女の子になれるんだよ?
 お嫁さんにしてくれるよね?)
舌がもつれてうまくしゃべれない。あたしはふらついて
おもわずケンちゃんの胸にしがみついてしまった。
ケンちゃんの吐息がすごく近くに感じる。
おおきな手の平があたしの髪を撫でている。
あたしの方からか、それともケンちゃんの方からか、
ゆっくり唇が近付いて___

キスはほんの一瞬。ううん、触れてもいなかったかもしれない。
突然の着メロにあたしの酔いは一気に醒めた。
「あ、沙苗ちゃん」
ケンちゃんが携帯で喋っている。今度の土曜に花火を見に行こうと
誘われたらしい。
花火って、でも、多分それだけじゃないよね?
…あたしじゃ絶対にかなわないものを、沙苗ちゃんは
持っているから。

…もう、自分の部屋へもどって寝なくちゃ。
すこしおなかが痛むのも、この感情も、よく眠れば
きっと消えるから。

+マエ+ +モドル+ +ツギ+

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